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旅行先で買い物をした時にレジの可愛らしいお姉さんが「銭洗弁天で洗った5円玉をお配りしています」と言ってきた。
(あらまぁそれは嬉しい)と思っていたら、お姉さんが「もし、よろしかったらご家族の分も差し上げますよ」と言い、可愛らしい笑顔のまま首を少し傾け(さぁ何枚必要ですか?)と、澄んだ瞳で問いかけてきた。
その視線を受け、一瞬。本当に一瞬。ほんの一瞬の間に、私はものすごく沢山の事を考えた。
私が必要な枚数は1枚だ。だって家族には隠して旅行来てるし、いるかわからないし。いや、おばあちゃんとと滅多に会わないおじいちゃんがいるけれどおばあちゃんと次に会うのは来月だし、その頃には銭洗弁天の5円の事なんて忘れてしまいそうだし。
あ、でも家族じゃなくても身近な人の分なら貰ってもいいんだろうな。でも、数少ない友達とは次いつ会うか分からないし。会うの年に数回だし。(学校に持っていくのは恥ずかしい)やっぱりその頃には銭洗弁天の5円の事なんて忘れちゃってるだろうし。
ていうか、笑顔で(ご家族の分、何枚必要ですか?)って顔してるお姉さんに、「あ、1枚で…」って言ったら、お姉さん焦って「すいませんっ!失礼しました!」とか言ってきたりしないだろうか。
それだけは勘弁してもらいたい。そんな事になったら逆に申し訳ないし、逃げ出したい。
口には出さなかったとしても「やべっ、なんか悪いこと言っちゃったな…ごみーん」なんて思われないだろうか。
それはそれで。私…泣いてしまうかもしれない。
あぁどうしよう。買い物に来てるのは私1人なんだから、お客様1人に対して1枚配っとけばいいんじゃないのかなぁ。そういうルール決めてないのかなぁ?わざわざ家族の分まで渡す必要ないんじゃないのかなぁ!
あ、でもお姉さん優しそうな人だから心配りしてくれてるのかも。お客様をとても大切に思っているのかも。仕事熱心な人なのかも。そうか、そうか。でも「1枚で」って言うの、やっぱりちょっと恥ずかしいな~。
で、結局。
『あ、じゃあ… 2枚で』
と言ってしまった。消えてしまいそうなほど小さな声で見栄を張ってしまった。
2枚というのは私の中の設定で夫or恋人の分、もしくは自分がシングルマザーという設定で子どもの分だ。あ、シングルマザーだったら子ども連れて買い物してるか。じゃあやっぱり夫か恋人の分だ。
虚しいウソをついてしまった。
私は時々思う。今後ずっと未婚だった場合、どこかで誰かに「ご結婚は?」と聞かれたら「私、バツイチなんです」と答えてしまう日が来るかもしれない…と。
その日に一歩近づいたような気がした。2枚の5円玉は、今も仲良く私の財布の中にいる。